―歴史的教訓から日本共産党の論点を検証する―
日本共産党はしばしば「戦前の戦争は国債発行による積極財政が招いた」と主張してきた。しかし、この議論は 原因と手段の混同 という歴史分析として致命的な誤りに基づいている。歴史的事実を検証すると、第二次世界大戦の核心は「積極財政が戦争を招いた」のではなく、むしろ 緊縮による経済危機が政治的極端化を招いた ことにこそある。
世界恐慌:清算主義がもたらした「予見可能な破局」
1929年の世界恐慌後、アメリカのフーヴァー政権は救済政策を拒否し、清算主義(liquidationism)と呼ばれる方針をとった¹。財務長官アンドリュー・メロンは「恐慌は経済を浄化する」と述べ、市場に任せるべきだと考えた。彼の発言には次のような言葉が残されている。
「恐慌は経済システムから腐敗を粛清し、勤勉さと道徳性を取り戻す」²
この発言は、「弱者排除」を目的としたと思われがちだが、学術的にはそう断定できない。しかし重要なのは、銀行破綻と大量失業という結果が既に顕在化していたにもかかわらず、メロンは救済を拒否し続けた という点である。つまり、**意図ではなく「予見可能な帰結の容認」**が問題だった。
この政策は結果として恐慌を深刻化させ、失業率は1933年に約25%まで達した³。救済拒否は「弱者を救わない」という選択であり、それが結果として多数の国民を苦しませた。
経済危機と政治的極端化:ファシズム台頭の土壌
政治学と社会史は、不況と権威主義の連関を明確に示している。カル・ポラニーは『大転換』⁴で、不況によって人々は「強いリーダー」を求めやすくなると論じた。
ドイツでは、第一次大戦の賠償金支払いと1923年のハイパーインフレが国家の正統性を揺るがし、国民はナチスの台頭を受け入れた。ハイパーインフレの原因は「財政のバラマキ」ではなく、外貨建て債務(賠償金)を支払うために通貨発行に依存したためである⁵。
これは現代MMTが指摘する 「自国通貨建て債務」と「外貨建て債務」の決定的差異と合致する。
ここで得られる教訓は単純である:
外貨建て債務は国家を破綻させるが、自国通貨建て国債は同列ではない。
この点を混同すると、現在の積極財政論は戦前と同じ問題を抱えているかのような誤読になる。
戦争の原因と戦費調達の区別
日本共産党は「戦時国債が戦争を拡大した」と主張するが、これは 原因(戦争)と手段(戦費調達)を混同している。
戦争が始まってから、各国は確かに国債発行、中央銀行引受、増税によって戦費を賄った⁶。しかしそれは、戦争という結果を遂行するための会計手法であり、戦争を引き起こした原因そのものではない。
国際政治理論においては、戦争の原因は 国際協調の崩壊、外交的失策、軍備均衡の破綻に求められる⁷。「国債発行=侵略の意図」という単純図式は、科学的説明として成立しない。
結論:戦争を避けるために必要なのは「積極財政」である
第二次大戦から得られる最大の教訓は、次の三点に要約される:
- 不況時の緊縮は危機を悪化させる
- 経済危機は政治的極端化を招く
- 極端化は戦争の土壌を作る
したがって、現代日本において戦争を防止するために必要なのは、
適切な積極財政によって経済を安定させ、国民生活を守ることである。
日本共産党が「積極財政=戦争の道」と断じることは、
第二次大戦という最も重要な歴史的教訓を見誤っていると言わざるを得ない。
脚注
¹ Eichengreen, Barry. Golden Fetters: The Gold Standard and the Great Depression, 1919–1939. Oxford University Press, 1992.
² Hoover, Herbert. Memoirs of Herbert Hoover: The Great Depression, 1929-1941. Macmillan, 1952.
³ Broadberry, Stephen and Mark Harrison (eds.). The Economics of World War II. Cambridge University Press, 1999.
⁴ Polanyi, Karl. The Great Transformation. Beacon Press, 1944.
⁵ Keynes, J. M. The Economic Consequences of the Peace, 1919.
⁶ Kindleberger, Charles P. The World in Depression, 1929–1939. University of California Press, 1986.
⁷ Mearsheimer, John J. The Tragedy of Great Power Politics. W. W. Norton, 2001.
