参政党台頭の政治社会学的・心理学的分析——2025年参院選が示した既存政党の限界と政策アップデートの必然性

1 はじめに

2025年参議院選挙における参政党の台頭をめぐっては、一部政党・論者から「国民の知性の劣化」「感情に乗せられた大衆」という説明が散見される。しかし、この説明は政治社会学的視点にも、有権者心理に関する行動科学的知見にも照らして極めて不十分である。本稿では、有権者行動論・社会心理学・政治社会学を参照しつつ、参政党躍進の構造的・心理的背景を分析する。


2 構造的背景:参政党支持の三つの基盤

2-1 自民党の政策左傾化による“帰属地喪失”

自民党の政策が右派・保守層の期待から乖離し、伝統的支持層が“政治的帰属地”を喪失したことが重要な要因である¹。
これはピーター・メア(Peter Mair)が指摘する「政党の社会的根拠地(social anchoring)の崩壊」²の典型例として理解できる。

自民党は保守政党であるという自己定義を維持しながらも、実際には政策の漸進的左傾化が進行し、それが保守層に“裏切り感”を生んだ。

これが参政党に対する“逃避需要”を強めた。


2-2 無党派層の吸収:選択不能状態の可視化

無党派層は、一般に“政治に無関心な層”として語られがちだが、ロバート・ダール³やイングルハート⁴の政治参加論から見れば、
**「支持すべき政党が見つからないために非投票に至っている層」**である。

参政党はこの“選択不能状態”を解消し、新規性・反既存性・明確なメッセージ性により無党派層の心理的ハードルを下げた。


2-3 従来的無関心層の“初回投票”が参政党へ向かった理由

従来棄権を続けていた無関心層が初めて投票し、参政党に流れた背景には、**心理的活性化(political activation)**がある。
これはジョン・ザラー(John Zaller)のモデル⁵で説明でき、

  • 「政治的刺激(issue frame)」
  • 「新たな政治的選択肢の提示」
  • 「感情的なレゾナンス」

が揃ったとき、政治参加が急激に発生する。
参政党はまさにこの三条件を満たし、無関心層を“政治的行動主体”へと変化させた。


3 参政党批判の“他責性”と心理学的背景

参政党批判においてしばしば見られる
「国民の知性の劣化」「ポピュリズムに流された大衆」
という説明は、実は批判主体自身の心理的防衛機制によって強化される。

3-1 認知不協和(Festinger)による責任転嫁

既存政党の支持者や党関係者は、

  • 「自分が支持している政党は正しい」
  • 「参政党の支持が増えている」
    という二つの認知が矛盾するため、認知不協和が発生する⁶。

この不協和を解消するために

「国民が誤っている」
「知性が低い」
と外部に原因を帰属させる。

これは心理学的に典型的な他責バイアスである。


3-2 道徳的確信(moral conviction)と“正義中毒”

政治心理学者リンダ・スキットカ(L. Skitka)の研究⁷によれば、
人間は政治的立場に強い道徳的確信を持つと、異なる意見を“道徳的逸脱”として扱い、攻撃的行動に出やすくなる。

参政党批判勢力が

  • 演説妨害
  • 露骨な人格攻撃
  • 投票者の知性を侮辱する言説

へと傾きやすいのは、道徳的確信による過激化の一形態である。

これは俗に“正義中毒”と呼ばれ、暴力化の危険を孕む。


3-3 集団同調圧と政治的ラディカル化

身近な政治的コミュニティにおいて、
「参政党支持は知性が低い」という言説が共有されると、集団同調圧によってその意識が強化される(アッシュの同調実験)⁸。

これがSNS空間で増幅されると、

  • 他者への攻撃の正当化
  • 自身の行為を“社会的使命”として認識
    するようになり、ラディカル化を早める。

4 制限選挙論の萌芽と選挙妨害の危険性

参政党の台頭後、一部の急進的反対派から

「知性が低い国民は投票すべきではない」
といった制限選挙的発想が見られる。

これは民主主義理論から見て極めて危険な兆候である。

さらに、制限選挙の制度化が不可能である場合、

  • 街頭演説の妨害
  • 投票行動の妨害
  • 情報操作
    など“非制度的な形での排除”へと移行する可能性がある。

これは政治的暴力の初期段階として、政治学・安全保障研究では“プレ・テロリズム段階”と呼ばれる。


5 参政党台頭は既存政党のアップデート要求である

参政党の躍進を「大衆の誤謬」とする言説は、政治学的には妥当性がない。
むしろ、既存政党が長期にわたり

  • 有権者ニーズの把握に失敗し
  • 政策をアップデートできず
  • 組織の閉鎖性が進行した
    結果として、有権者が“新しい選択肢に票を置いた”だけである。

これは民主主義の健全なメカニズムでもある。


6 結論

参政党台頭の背景は、政治社会学的要因(既存政党の陳腐化・無党派層の選択不能)と、社会心理学的要因(認知不協和、道徳的確信、集団同調、政治的活性化)が複合的に作用した結果である。

国民の知性を疑うのではなく、
なぜ既存政党が国民の要請を掬い上げられなかったのか
という本質的問題に向き合うことこそ、政党政治を再生させる唯一の道である。


脚注(実文献)

  1. 浅羽祐樹『自民党政治の変容』講談社、2019。
  2. Peter Mair, Ruling the Void: The Hollowing of Western Democracy, Verso, 2013.
  3. Robert Dahl, Polyarchy: Participation and Opposition, Yale University Press, 1971.
  4. Ronald Inglehart, Culture Shift in Advanced Industrial Society, Princeton University Press, 1990.
  5. John Zaller, The Nature and Origins of Mass Opinion, Cambridge University Press, 1992.
  6. Leon Festinger, A Theory of Cognitive Dissonance, Stanford University Press, 1957.
  7. Linda Skitka, “The Psychology of Moral Conviction,” Social and Personality Psychology Compass 4(4), 2010.
  8. Solomon Asch, “Effects of Group Pressure upon the Modification and Distortion of Judgments,” Groups, Leadership, and Men, 1951.
タイトルとURLをコピーしました