なぜ日本では可処分所得が伸びないのか
「経済が伸びない」「給料が上がらない」「物価だけが上がる」。 こうした言葉を、私たちは何年も聞き続けています。
多くの人は人口減少や企業努力の不足を理由に挙げますが、 その背後にはもっと根本的な要因――通貨の供給量の不足――があります。
政府や中央銀行が通貨発行量を抑えると、経済全体で流通するお金が不足します。 その結果、「パイの奪い合い」による過当競争が起き、国民の可処分所得の伸びが抑え込まれてしまうのです。
通貨量が少ないと何が起きるのか
経済は「お金の流れ」で成り立っています。 市場に出回るお金が少なければ、どんなに需要や技術があっても取引は生まれません。
通貨量が抑えられた経済では、次のような現象が起きます。
- 企業は限られた消費を奪い合い、価格競争が激化する
- 企業収益が伸びず、賃金が上がらない
- 消費者の購買力が下がり、さらに需要が縮む
この悪循環こそが、「可処分所得が伸びない構造」を作り出しているのです。
潜在需要は“ある”が、“お金が回らない”
実は、日本には潜在的な需要がたくさんあります。
もっと良い暮らしをしたい、住宅を改善したい、教育や医療に投資したい―― これらはすべて「本当は買いたいけれど、今はお金がない」という形で眠っています。
経済学では、こうした眠った需要を潜在需要、 実際に支出として現れるものを有効需要と呼びます。
つまり、潜在需要を有効需要に変えるには、通貨の裏付けが必要なのです。
通貨発行と有効需要の関係
ケインズ経済学では、「有効需要が不足すると、供給力があっても経済は成長しない」とされます。
中央銀行や政府が通貨供給を増やせば、企業や家計にお金が回り、支出(投資・消費)が増えます。 それが「潜在需要の顕在化」=経済の実需回復につながるのです。
しかし、単に通貨を増やすだけでは十分ではありません。 お金を「使っても大丈夫だ」と感じられる環境――将来への信頼、安定した雇用、所得再分配――がなければ、 人々はお金を貯め込み、通貨の回転率(貨幣の流通速度)が下がってしまいます。
必要なのは「通貨 × 信頼」の両輪
潜在需要を有効需要に変えるには、次の2つが同時に必要です。
| 要素 | 役割 |
|---|---|
| 通貨発行(マネーサプライ拡大) | 潜在需要を支える購買力の提供 |
| 信頼・期待の醸成 | 支出・投資を促す心理的安定 |
政府の積極的な財政政策や安定した所得政策は、 この両方を刺激しうる重要な手段です。
通貨が足りない経済は、競争が過熱し、所得が伸びない
通貨供給を抑えたまま経済成長を目指すことは、 限られたパイを奪い合うゲームを続けるようなものです。
お金が十分に行き渡らなければ、企業は価格を下げ、 労働者は低賃金で競い合い、国民の生活は豊かになりません。
本来の解決策は、「競争を抑えること」ではなく、 お金の流れを潤沢にし、潜在需要を呼び起こすことにあります。
それが、真の意味での「持続的成長」への道です。
結語
「通貨の量」は単なる金融の話ではなく、 社会全体のエネルギー循環そのものです。
もし私たちが「もっと良い社会」を望むなら、 その基盤となるお金の流れを見直す必要があります。
通貨は経済の血液。 流れが滞れば、どんなにポテンシャルがあっても体(社会)は動きません。
潜在需要を眠らせたままにせず、 それを有効需要として動かす――。 そのための「通貨の量」と「信頼」を、もう一度見直す時が来ています。
参考文献:
ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』/岩井克人『貨幣論』/橘玲『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』
